2026年5月12日、川崎市で3者が覚書に調印しました。目的は、持ち運びできる「可搬型光周波数標準」(=光格子時計をベースにした基準器)が、世界の時間合わせにどんな役割を果たせるかを共同で検討すること。各国の時計を相対誤差10のマイナス18乗というレベルで比較し、協定世界時(UTC)へ貢献させる構想で、「秒の再定義に向けたロードマップの重要な一歩」と位置づけられています。産業技術総合研究所の計量標準総合センター(NMIJ)も参与予定です。
メートルやキログラムなど世界共通の単位を管理する国際機関(本部パリ)。協定世界時(UTC)の計算も担う。アネット・クー局長。
光格子時計の発明者・香取秀俊氏(東京大学教授)がチームディレクターを務め、世界最高水準の研究を推進。五神真理事長。
2025年に光格子時計を世界に先駆けて製品化した計測機器メーカー(本社京都)。山本靖則社長。可搬型標準器の実証を担う。
「1秒」は自然にあるものではなく、人間が決めてきた「約束」です。その物差しは、より狂わないものへと乗り換えられてきました。
※ 再定義後もセシウム時計は廃止されず、「二次標準」として世界標準時の管理を支え続ける見通しです。
1秒を刻む目盛りが約4万7000倍細かくなるイメージ(図はあくまで模式)。定規の目盛りが細かいほど正確に測れるのと同じで、速く振動する「光」を数えるほど1秒を精密に切り出せます。
ポイントは2つ。①原子を「魔法波長」という特別な波長のレーザーで作った微小な格子(光格子)に閉じ込めることで、原子を捕まえたまま、測定への悪影響だけを打ち消せること。②原子(イオン)を1個だけ捕まえて測る方式と違い、約100万個を同時に測って平均することで、統計的なばらつきが一気に小さくなること。この2つの合わせ技で、セシウム時計の約1,000倍という精度を実現しました。
アインシュタインの一般相対性理論によると、重力が強い場所(低い場所)ほど時間はゆっくり進みます。日常ではまったく感じられないこの効果が、光格子時計の精度なら「見える」ようになります。実際に2020年には、東京スカイツリーの地上階と展望台(高低差約450m)に光格子時計を置き、時間の進み方の違いを実測してこの理論を検証しました。
スカイツリーの展望台では、地上より1日あたり約4ナノ秒だけ時間が速く進みます。この差を光格子時計は実測できました。
※ 1ナノ秒=10億分の1秒。g=9.8m/s²・光速c=約30万km/sで計算した理論値の概算です。
時間の進み方の差から標高差を逆算する「相対論測地」。光格子時計なら1cm単位の高さの変化を捉えられ、水準測量に代わる新しい測り方になる。
地殻やプレートのわずかな上下動=地下のマグマや歪みの変化を、時計の進み方の変化として常時監視。噴火や地殻変動の早期検知への応用が期待される。
衛星測位は「時計の精度」がそのまま位置の精度になる世界。超高精度の時計は、自動運転やインフラ管理を支える次世代測位の土台になる。
通信ネットワーク・金融取引・電力網は精密な時刻同期の上に成り立つ。協定世界時(UTC)への貢献を含め、社会の「時間の土台」そのものを強くする。
単位の再定義では、「その精度を世界中で再現・比較できること」が絶対条件になります。理論と実験で世界をリードする理研・香取氏、それを製品として量産・運搬可能にした島津、そして単位の番人BIPM——今回の3者連携は、「日本の時計を世界の1秒にする」ための布陣と言えます。