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背景にあるのは「パックス・アメリカーナ(米国による平和)の終焉」。第2次大戦後、米国は経済力と産業力で世界に安全保障の傘を提供してきましたが、その一国依存が続かなくなり、各国が自らの安全保障に貢献する必要が出てきました。
ここで効くのがbits(ビット=ソフトウェア)と atoms(アトム=ハードウェア・製造)の対比です。米国はソフトウェアで大きく先行する一方、過去数十年で製造(atoms)を中国などにアウトソースしてきた。だから同盟国の製造力が重要になります。日本は米国にとって最大級の同盟国(最大の対米投資国であり、製造業では最大級の外資系雇用主、米軍基地数も世界最多)で、地政学的にも緊張地域に近い。日本には米国の安全保障、そして自国の安全保障に貢献する大きな機会がある——これが防衛テックが注目される理由です。
技術の変化も後押しします。かつては数千億円の戦闘機プログラムを作れるかが勝負でしたが、今は戦場の認知・連携をつかさどるソフトウェアの層が重要になり、海・地上・空の安価なドローン群を大量に運用する時代へ。ここで日本の高精度・高品質な製造が生きてきます。
創業はOculusのパルマー・ラッキーとファウンダーズファンドのトレイ・スティーブンス。ピーター・ティールが創業したファウンダーズファンドが最初に出資しインキュベートしました。同ファンドと同じく指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)に由来する名を持つのが、データ解析のパランティア。アンドゥリルが創業期から日本の製造基盤(アクチュエーター等の部品)を使ってきた点が、日本にとって重要です。
コーラルが出資した決め手は、多くの海外VCが「日本の防衛予算増の波に乗りたい」と考える中で、アンドゥリルは日本にいる目的だけでなく「日本と一緒に作る・製造する」ことにコミットしている点。日本に製造基盤を築き、日本の防衛業界にコミットする——ここが根本的に違う、と評価しています。報道では、日産の追浜工場を取得してドローン生産拠点にする計画も伝えられ、100%日本製部品のドローン試作品も披露されています。
フィジカルAIの時代に日本が強い理由が「暗黙知(process power)」です。ライニー氏は「信頼性の崖(reliability cliff)」という概念を挙げます——SNSでバズる「踊るロボット」と、工場で人と安全に、何年も壊れず働くロボットはまったくの別物。後者に必要な信頼性こそが本質です。
そして中国のロボットでさえ、その裏では日本製の部品——ハーモニックドライブやナブテスコといった、派手な動画には映らない企業——が使われています。中国は一部でキャッチアップしたが、すべてではない。差の源泉が「プロセスパワー=製造プロセスそのものの力」です。歯車が1つあっても、形や素材は分かってもリバースエンジニアリングは非常に難しい。いつ・どう熱を加えるか、どんな合金か、といった数十年かけて積み上げた工程の知恵は簡単に真似できない——ここに日本の強みがあります。
これだけ日本企業が関わり、日本のエンジニアのおかげでアンドゥリルがここまで来た面もある。ではなぜ日本からアンドゥリルが出てこなかったのか——ライニー氏は「正直すごく悔しい」と言います。
仮説は2つ。1つは防衛がそもそもセンシティブだったこと。もう1つが心理です。米国最大の強みは「ロジックのない楽観(根拠のない楽観)」=とりあえずできるでしょ、という姿勢。逆に日本最大の弱みは「ロジックのない悲観」=実はできる(もしかすると技術的には米国以上)のに、すごく悲観的だという指摘です。「無理だと思ったら、もう無理」。初代iPodの美しい筐体づくりで新潟・燕の工場が見つけ出されたように、日本にあるのに、日本人より先にアメリカ人が見つけることが起きています(今回もアンドゥリルの取引先に秋田の小さなモーターメーカーが入っていた)。
期待するのは、アンドゥリルが日本に工場を作り優秀な日本人エンジニアを採用することで、そのスピード感と米国流の楽観に影響され、5年後10年後に「私たちもできるじゃん」という空気が生まれること。そうなれば防衛に限らずハードテックで多くの会社が出てくる——その時コーラルは全力でバックアップしたい、と語ります。
正直、純ソフトウェアの世界で日本からネクスト・ソニーやトヨタが出るとは考えにくい(言語・文化の壁、マーケ・セールスの比重が大きい)。しかしロボットを実際に作れる「フィジカルAI」の時代には、半導体のサプライチェーンを含め日本のハードの強みが生きる。テスラ・スペースX・Appleが示すように主役は「ハード→ソフト→またハード」と巡り、ハードとソフトが組み合わさると強いプロダクトになる。ここに日本の逆転の芽がある、という見立てです。
その象徴が京都フュージョニアリング(核融合)。コーラルは創業初期(2019年設立)から出資しており、まず「ツルハシを売る」=部品を提供し、2030年代に発電が現実になればリアクター全体・サプライチェーンを押さえていく戦略です。日本は原子力にも製造業にも強く、掛け算で部品を提供するモデルは合理的で、ノウハウが蓄積すれば自分たちで作れる、と。90年代に中韓が政府支援(助成金)で製造基盤を作ったのに対し、日本企業が撤退したのは合理的な判断でしたが、最近は日本政府も助成金でギアを変え、ハードウェア界が盛り上がる期待があります。
ソフトは言語・文化の壁でマーケ・セールスが必須。だがハードは、ものが機能しスペックで証明できれば、積極的に売り込まなくても世界で通用する。ここは日本人(東アジア)が強い。
数千億円級の会社にするには市場を国内に閉じない。「グローバル企業を作るぞ」と覚悟し、英語を話せるメンバーを集め、社内言語や組織の作りをそのニーズに合わせて設計する。
大企業の売上はすでに大半が海外。スタートアップは目線を上げないと厳しい。ただしAI時代は言語の壁が急速に消え、グローバル化の難易度は下がっている。
アメリカでは今「ジャパンラブ」が高まり、防衛に限らずフィジカルAI・航空機エンジンなど幅広い米スタートアップから「日本のこういう相手に会いたい」という連絡が殺到しているといいます。日本を製造基盤にしたい狙いが多い一方、「部品提供にとどまるのか、全体を指揮する存在になれるのか」は今後の問い。ライニー氏は「製造基盤は基盤。そこからいずれ自分たちで作れる(中韓もそうだった)。まずはそこを押さえるべき」と締めくくります。